「通信と放送の融合」の本質-楽天問題最終章
(2005年11月22日 Livedoor Blogからの再掲)
「銀行側からTBSと楽天に妥協案が提示されましたけど、何かコメントでないんですか?」というメールを多くの方にいただいた。
しかし、このエントリーのシリーズを最初から読んでいただければ(かつ「楽天 敗北へのカウントダウン」シリーズも)おわかりのように、この話はもう最初から結論が出ている。
ポイントを以下にもう一度まとめたい。
・通信(ネット)と放送の融合と言われていることの本質は放送事業者(及び電通等の広告代理店)が、現在ほぼ独占状態にあるスポンサー企業の広告宣伝費、販売促進費を通信(ネット)系事業者が分捕りに行っているということに他ならない。
・そういう観点から考えると現在、コンセプトとして正しいアプローチをしているのはUSENのGyaoと最近発表されたソフトバンクのTV Bank構想だけである。潜在的には今後、日本市場に導入されるであろうアメリカのTiVoのビジネスモデルだが、これはまだ日本での具体的な事業展開イメージが発表されていない。
・コンテンツに特定の紐付けを行うことは利用者の枠を狭めることになり、得策とは言えず、むしろ地上波テレビコンテンツ、映画コンテンツに可能な限り広い網をかけることが利用者の選択肢を拡げ、ひいては新たな広告媒体としてのクリティカルマス獲得への近道を意味する。
・コンテンツサービス事業者で月々の利用料、Pay Per View課金を行うのは敗北シナリオである。理由は日本の消費者は無料で高品質な地上波テレビコンテンツに慣らされており、欧米のようにCATVや衛星放送サービスがデフォルトで「コンテンツは有料」という素地のある土壌ではないからである。この傾向は日本だけでなくアジアの消費者でより顕著になる。(スカパー、WOWOW、その他の有料コンテンツ配信サービスが日本では伸び悩み、ほとんどが成功とはいえないのは、このためである。)
・よってコンテンツサービス事業者は広くかつ限りなく無料に近い価格でコンテンツを提供し、収入はむしろ集めた加入者の属性情報を加工することにより、自らを新たな広告媒体(メディア)とすることによって得る広告収入モデルを志向するしかない。
・つまりネットで今の地上波TV局のビジネスモデルを再現するのである。新しいモデルが違うのは、利用者の属性情報をデータマイニングしてよりタイミング良く、気の利いた広告がさまざまなデバイス経由で送られてくるため、従来の広告よりも投資効果が高いことである。ROIに敏感なナショナルスポンサーがこちらにシフトすることは明らかである。
・一方、TV局はディストリビューションの物理的なチャネルが早晩電波からネットに移行することを強く意識しなければならない。地上波デジタルという言葉があるが、2011年にはもう「波」のビジネスに頼る必要はない。地上にある光ファイバーベースのネットワークが十分に「波」のオルタナティブとして育っている。TV局は自らネット事業を行うか、ネット事業者と提携・買収するか、いずれも行わずに番組制作会社に専念しつつ、新興ネットメディア事業者から広告宣伝費収入のレベニューシェアを受けるモデルをイニシアティブのあるうちにネットメディア事業者に飲ませるかを選択しなければならない。
地上波デジタルサービス対応などに投資している場合ではない。危険を冒して上場したのは地上波デジタル化投資のためのやむにやまれぬ手段だったのはわかるが、もはやその意義は消滅しつつある。今となってはせっかく手にした資金は新たな市場で広告利権を有効に確保するために使われなければ株主説明責任を果たすことは今後できない。
・総務省は「波」のビジネスをベースにした行政や消費者誘導を早期にあきらめ、ブロードバンドネットをベースにした新たなビジョンを策定しなくてはならない。そして空いた周波数帯を携帯だけではなく、カーナビ、無線LAN技術、その他今後登場する各種モバイルサービス端末すべてに等しく配分し、それらの高機能化を促さなければならない。家電メーカーは消費者やキー局の地方ネット系列局が、地上波デジタルのためになんか誰も新規投資をしないことを早く意識し、むしろ家庭内でTVとPCのディスプレーをシームレス
で使えるデバイスやパーソナルディスプレーの開発に集中した方が良い。(SANYOやパイオニアの経営陣がこのエントリーを見ていたら一発大逆転のヒントはここにある。総合音響家電メーカーである必要はないが、この領域で生き残れれば十分に復活の目はある。)
・今後のキーワードは「タイムシフト」「プレースシフト」「デバイスシフト」である。ユビキタスと大括りにされるこれらのコンセプトだが、利用者に明確にイメージさせるためには従来の「いつでも、どこでも、誰とでも、どんな端末ででも」求める情報にアクセスし、コミュニケーションを可能とすることが求められる。
・日本における通信(ネット)と放送の融合像はプッシュ型コンテンツ配信をTVコンテンツが担い、プル型のコンテンツ収集をネットのRSSベースの検索技術が担う。これらは近い将来、「パーソナルポータル」という形で「利用者の手元」で融合する。繰り返す、融合の場はコンテンツ提供者サイドではない、利用者の手元で放送と通信は真の「融合」を果たす。
・提供者側で融合をさせようとするあらゆる試みはすべて失敗する。楽天はここを見間違っている。ライブドアは間違いに気がついたが、次の手が打てていない。ソフトバンクはじっくりと両者の動きを見て、最善の手を見出した。まさにプロ野球参入の時と同じである。
・上記の考察からコンテンツをプッシュ、プル両サイドで利用者の手元で融合させる事業者が次世代の覇者である。
具体的なキープレーヤーは、USEN・ソフトバンク(ヤフーではない。ヤフーが従来型ポータル事業を志向する限り、パーソナルポータル陣営には勝てない)、インデックス、グーグル、TiVo、アップル、アマゾン、eBay、Skype、イーアクセス、CCC、各種ネット広告事業者、自らのメディアとしての可能性にいち早く目覚めた携帯電話サービス事業者、消費者属性情報を効果的にデータマイニングし、ダイレ
クトかつマイクロマーケティング広告につなげることができる、かつ属性情報と個人情報を峻別して安全に管理することができるデータ管理・加工事業者「だけ」であろう。NTTグループが勝ち組に残れるかどうかはドコモの携帯事業リソースを固定ネット系とどれだけ一体的に提供できるか、上記のプレーヤーと効果的なパートナーシップをどれだけ早期に確立できるかにかかっている。すでに出遅れているが今後一年以内にUSEN、ソフトバンクレベルに追いつくビジョンが出せれば、融合サービス提供事業者として、新たなメディア企業として生き残りができる。ダメだった場合は、「相変わらず月額利用料で食っていく旧世代ネットサービス事業者」としてジリ貧になるであろう。
・マス系のネットサービスは近い将来、広告収入を前提に限りなく無料に近くなっていくことを余儀なくされる。携帯電話料金も通話に関する料金は5年から10年スパンで無料化に向かうことが避けられないであろう。
・もちろん、無料では利用しない消費者も多く存在する。それは有料でもいいから、自分の属性情報を提供し代わりに絶え間なく広告を受けるのが嫌だという層である。マス消費者のネット系サービスの利用動向は将来的には二極化するであろう。
長々と書いたが、私は今後楽天がTOBをしようと、それが成功しようと失敗しようとあまり関心がない。面白おかしく取り上げることはするかもしれないが。
ただ、楽天は少なくとも通信と放送の融合という観点からは最初の段階でボタンを掛け間違っている。そもそものアプローチが誤りなのである。
「3年後、『三木谷の言っていたことは正しかった』と誰もが言う時代が来る」と三木谷氏は言う。でも、あえて言う。3年後そういう人は誰もいないと私は確信している。
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